『門に万里の客あり』


去 行 今 本 太 挽 果 褰 間 門
去 行 爲 是 息 裳 得 裳 君 有
適 將 呉 朔 前 對 心 起 何 萬
西 復 越 方 自 我 所 從 鄕 里
秦 行 民 士 陳 泣 親 之 人 客




門有萬里客 門に万里の客有り
問君何鄕人 君に問う 何れの郷の人ぞ
褰裳起從之 裳を褰げ 起ちて之に従い
果得心所親 果たして心の親しむ所を得たり
挽裳對我泣 裳を挽き 我に対して泣き
太息前自陳 太息して 前みて自ら陳ぶ
本是朔方士 本は是れ 朔方の士なるに
今爲呉越民 今は 呉越の民となる
行行將復行 行き行きて 将に復た行かんとし
去去適西秦 去り去りて 西秦に適かん
門前を 遠方からの旅人が通りすぎる
私はその人に「どこから来られたのですか」と問いかけた
裳(もすそ)をかかげ 彼の後に従い
ついに親しく語り合うことが出来た
彼は私の裳を引っ張り 目の前で泣きながら
溜息をつき顔を上げてこう述べた
「私はもと北方の人間でしたが
いまは南方呉越の民となっています
それ以来 旅から旅を重ねまして
これから西方の秦へ向かうところです」
【『門に万里の客あり』】制作年代も製作意図も不明。封地を転々とする曹植が、旅人の哀しみに、みずからの悲哀を託したとされる。 【裳(もすそ)をかかげ】詩経』「鄭風 褰裳(けんしょう)』に、「子 もし惠(いと)おしみて我を思わば 裳を褰(かか)げて溙を渉れ」という恋の歌がある。 

〔藝文29〕

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