盤石(ばんせき)篇』


吁 乗 思 仰 欲 中 遊 南 下 常 未 經 乗 一 珍 方 澎 呼 鬚 鯨 浮 高 光 蚌 湖 岸 林 蒹 何 我 飄 盤
嗟 桴 想 天 師 夜 眄 極 與 恐 知 危 颸 擧 寶 舟 濞 吸 若 脊 氣 波 采 蛤 水 巖 木 葭 爲 本 颻 盤
我 何 懐 長 當 指 窮 蒼 黿 沈 命 履 擧 必 麗 尋 戯 呑 山 若 象 凌 如 被 何 若 無 彌 客 泰 澗 山
孔 所 故 歎 定 參 九 梧 鼈 黄 所 險 帆 千 以 高 中 舟 上 丘 螭 雲 錦 濱 洶 崩 分 斥 海 山 底 巓
公 志 邦 息 從 辰 江 野 同 壚 鍾 阻 幢 里 通 價 鴻 欐 松 陵 龍 霄 虹 涯 洶 缺 重 土 東 人 蓬 石




盤盤山巓石 盤盤たり 山巓の石
飄颻澗底蓬 飄颻たり 澗底の蓬
我本泰山人 我は本 泰山の人
何爲客海東 何為れぞ 海東に客たる
蒹葭彌斥土 蒹葭 斥土に弥く
林木無分重 林木 分重なる無し
岸巖若崩缺 岸巌 崩れ欠くるが若く
湖水何洶洶 湖水 何んぞ洶洶たる
蚌蛤被濱涯 蚌蛤 浜涯を被い
光采如錦虹 光采 錦の虹の如し
高波凌雲霄 高波は雲霄を凌ぎ
浮氣象螭龍 浮気は螭龍に象たり
鯨脊若丘陵 鯨の脊は丘陵の若く
鬚若山上松 鬚は山上の松の若し
呼吸呑舟欐 呼吸すれば舟欐を呑み
澎濞戯中鴻 澎濞たる 戯中の鴻ににたり
どっしり腰を下ろした山頂の岩
ひらひら風に吹かれる谷底の蓬(よもぎ)
私は本来 泰山の人間なのに
何の理由があってか東海を旅する身となった
萩の樹は海岸に生い茂り
木立は重なり合っている
高い岸壁を突き崩すが如く
激しい波が押し寄せる
蛤(はまぐり)は海辺を覆い
その光はまるで5色の虹
波は高く空に届かんばかり
蜃気楼は黄色の竜と似ている
丘陵のような鯨の背中
山上の松のごとき髯をもち
一呼吸で船を飲み込み
波飛沫は遊び戯れる大鳥のようだ
【『盤石篇』】一説に曹操の海賊管承征伐に従軍した206年(当時15歳)の作。黄初年間の作とする説も多い。 【泰山】山東省にある山。信仰の対象になっていて、儀式や祭典が行われる。 

方舟尋高價 方舟 高価なるを尋ね
珍寶麗以通 珍宝 麗きて以って通ず
一擧必千里 一たび挙がれば 必ず千里
乘颸擧帆幢 颸に乗じて 帆幢を挙ぐ
經危履險阻 危きを経 険阻なるを履み
未知命所鍾 未だ命の鍾う所を知らず
常恐沈黄壚 常に恐る 黄壚に沈み
下與黿鼈同 下 黿鼈と同じからんことを
南極蒼梧野 南して蒼梧の野を極め
遊眄窮九江 眄を遊ばせて九江を窮む
中夜指參辰 中夜 参と辰を指し
欲師當定從 師となし当に従うところを定むべきを欲す
仰天長歎息 天を仰ぎて長歎息し
思想懐故邦 思い想うて故邦を懐かしむ
乘桴何所志 桴に乗りて 何の志す所ぞ
吁嗟我孔公 吁嗟 我が孔公
大きな船で漕ぎ出し 値打ちのあるものを探し求め
高賈な珍宝を取り引きするのが私の仕事
ひとたび船出すれば必ず千里
風を受け帆を上げ進んでいく
そうやって危険な目に遇い険しい山も踏み越えてきたのに
いまだ私には 天の声が聞こえない
だからいつも怖れていた あの世に行って
大亀やスッポンと同じ運命を辿るのではないかと
南は蒼梧の野を極め
9つの河の流れにも乗った
深夜に參と辰の星を指差し
それを師として従がおうと思ったこともあった
しかし やり切れず 天を仰いで長い溜息をつく
果てない思いは故郷を懐かしむばかりだ
これから私は桴(いかだ)を浮かべて何処へ進めばいい?
ああ 我が孔子よ!
【大きな船】原文「方舟」。2艘並んだ舟、楼船のことか。積載量を多くするため、竜骨構造の大船が現われる前の貿易や水軍には、2つの船体を梁(はり)でつなぎ合わせる双胴船を用いた。 【あの世】原文「黄壚」は、黄泉(地下にある泉。死後行く場所)の下の黒土のこと。死を迎えた人間のたましいは、「魂」と「魄」に分離し、天と地に別れる。 【蒼梧の野】蒼梧は山の名前。別名「九疑山」。舜の葬られた場所。 【參と辰の星】原文「參辰」。「參」(しん)は、西方の最も明るい星、「辰」(しん)は東の空にある星。季節や方向を知るのに用いた。 【桴を浮かべて】『論語』「公治長」に、「子曰く、道行われず。桴に乗りて海に浮かばん」とある。 

〔楽府64〕

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