『美女篇』



中 盛 安 衆 求 佳 玉 媒 誰 容 高 青 乃 借 休 行 長 顧 輕 羅 珊 明 腰 頭 皓 攘 落 柔 采 美
夜 年 知 人 賢 人 帛 氏 不 華 門 樓 在 問 者 徒 嘯 盻 裾 衣 瑚 珠 佩 上 腕 袖 葉 條 桑 女
起 處 彼 徒 良 慕 不 何 希 耀 結 臨 城 女 以 用 氣 遺 隨 何 間 交 翠 金 約 見 何 紛 岐 妖
長 房 所 嗷 獨 高 時 所 令 朝 重 大 南 安 忘 息 若 光 風 飄 木 玉 琅 爵 金 素 翩 冉 路 且
歎 室 觀 嗷 難 義 安 營 顏 日 關 路 端 居 餐 駕 蘭 采 還 颻 難 體 玕 釵 環 手 翩 冉 間 閑




美女妖且閑 美女 妖にして且つ閑なり
采桑岐路間 桑を採る桑を採る 岐路の間
柔條紛冉冉 柔條 紛として冉冉たり
落葉何翩翩 葉の落ちること何ぞ翩翩たる
攘袖見素手 袖を攘い 素手を見(あらわ)せば
皓腕約金環 皓腕 金環を約(むす)ぶ
頭上金爵釵 頭上には金爵の釵
腰佩翠琅玕 腰には佩ぶ翠琅玕
明珠交玉體 明珠 玉体に交わり
珊瑚間木難 珊瑚 木難に間(ま)じる
羅衣何飄颻 羅衣 何ぞ飄颻たる
輕裾隨風還 軽裾 風に隨って還(めぐ)る
顧盻遺光采 顧盻すれば光采を遺(のこ)し
長嘯氣若蘭 長嘯(ちょうしょう)すれば 気 蘭の若し
行徒用息駕 行徒は用って駕を息(やす)め
休者以忘餐 休者は以て餐を忘る
うるわしくしとやかな美女が
分かれ路の辺りで桑の葉を摘んでいる
若い枝がゆらゆらと揺れて
葉がひらひらとこぼれ落ちる
まくった袖ロからのぞいた手
白い腕には金の腕輪
頭上には金雀のかんざし
腰には翠琅玕の佩玉
真珠を連ねた飾りをその身にまとい
紅の珊瑚と碧色の木難の輝きが交差する
薄絹の衣はひらひらと揺れ
軽やかなもすそは風のままにひるがえる
振り返る眼差しは輝きを残し
長く口ずさめば蘭の香りをただよわせる
道行く人は思わず車を止め
休んでいる人も食事を忘れるほどに見とれてしまう
【『美女篇』】この篇は、美女が理想の恋人を求める姿に託して、臣が賢君を求め、その人を得なければ出仕しないという寓意をこめた作品とされる。前半は様々な角度から美女の典型を描写し、後半の展開に説得力を持たせている。建安文壇の中で、曹丕や徐幹は女性の心情をうたうのが上手かったが、加えてビジュアル的に女性の美を描き出そうとしたのは曹植だけの気がする。 【桑を採る】どうしていいところのお嬢様が桑摘みのような農作業をしなければならないのかと疑問に感じなくもないが、この作品とほぼ近い時代に作られた『陌上桑(作者不詳)』もやはり桑摘みをする美女を描いている。。 

借問女安居 借問す 女は安くにか居る
乃在城南端 乃ち城の南端に在り
青樓臨大路 青楼 大路に臨み
高門結重關 高門 重関を結ぶ
容華耀朝日 容華 朝日に耀く
誰不希令顏 誰か令顔を希(ねが)はざらん
媒氏何所營 媒氏 何の営む所ぞ
玉帛不時安 玉帛 時に安んぜず
佳人慕高義 佳人 高義を慕い
求賢良獨難 賢を求むること良に独り難し
衆人徒嗷嗷 衆人 徒らに嗷嗷(ごうごう)たり
安知彼所觀 安んぞ彼の観る所を知らん
盛年處房室 盛年 房室に処り
中夜起長歎 中夜 起ちて長歎す
「あの人のすまいは?」と尋ねてみると
「あの方のお屋敷は城市の南の端
青い高殿は大通りに面していますが
高い門が幾重にも閉ざされています」
あの光り輝く朝日のような美貌を見て
妻にと求めない者があろうか
仲人は何をしているのだろう
結納の品が届いたという話はまだ聞かない
この美しい人は高節の人物を望んでいるが
そのような賢人を求めてもなかなか見つかるものではない
世間はただわいわい騒いでいるだけで
人々は彼女の胸の内を理解できない
その美しさを部屋に閉じ込め
夜半 眠れぬままに起き上がって長いため息をもらすのである

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