浮萍(ふひょう)篇』


裁 發 涙 悲 人 日 愁 慊 君 行 無 新 不 茱 曠 何 和 在 無 格 來 結 随 浮
縫 篋 下 風 生 月 心 慊 恩 雲 若 人 若 萸 若 意 樂 昔 端 勤 爲 髪 風 萍
紈 造 如 來 忽 不 將 仰 倘 有 故 雖 桂 自 商 今 如 蒙 獲 在 君 辭 東 寄
與 裳 垂 入 若 恆 何 天 中 反 所 可 與 有 與 摧 瑟 恩 罪 朝 子 厳 西 清
素 衣 露 懐 寓 處 愬 歎 還 期 歡 愛 蘭 芳 參 頽 琴 惠 尤 夕 仇 親 流 水




浮萍寄清水 浮萍 清水に寄り
随風東西流 風に随いて東西に流る
結髪辭厳親 結髪 厳親を辞し
來爲君子仇 来たりて君子の仇と為る
格勤在朝夕 格勤して朝夕に在りしに
無端獲罪尤 端無くも罪尤を獲たり
在昔蒙恩惠 在昔 恩恵を蒙り
和樂如瑟琴 和楽して瑟琴の如し
何意今摧頽 何んぞ意わん 今 摧頽し
曠若商與參 曠かなること 商と参の若くならんとは
茱萸自有芳 茱萸 自ずから芳 有れど
不若桂與蘭 桂と蘭とには若かず
新人雖可愛 新人 愛す可しと雖ども
無若故所歡 故の歓ぶ所に若くは無し
行雲有反期 行雲 反る期あり
君恩倘中還 君恩 倘しくは中ごろに還らん
慊慊仰天歎 慊慊として天を仰ぎて嘆じ
愁心將何愬 愁心 将に何くにか愬えんとする
日月不恆處 日月 恒には処らず
人生忽若寓 人生 忽として寓の如し
悲風來入懐 悲風 来たりて懐に入り
涙下如垂露 涙 下って垂露の如し
發篋造裳衣 篋を発きて裳衣を造り
裁縫紈與素 裁縫す 紈と素とを
浮き草は清らかな水に身を寄せ
風のままに西へ東へ流れている
私は15の年に 父母にお別れを告げ
ここへ来て あなたの妻になりました
朝早くから夜遅くまで 身を慎み励みましたが
どういう理由かあなたのお咎めを受けてしまいました
その昔 恩愛の恵みを受けむつまじく楽しみあうこと
瑟琴の唱和するようでしたのに
いまは打ち砕かれて 遙に隔たること
商と参のようになろうとは……
呉茱萸(ごしゅゆ)にも おのずと具わる芳香がありますが
肉桂や蘭の香りには及びません
新しい妻は それは可愛いでしょうが
かつて愛した相手に勝るものではないでしょう
空を行く雲にも還る時があるように
あなたの愛情も いつか戻って来ることがあるでしょうか
満ち足らぬ想いで天を仰ぎ そっとため息を付く
この哀しみ どこへ訴えれば良いでしょう
太陽や月は同じところにとどまってはいない
人の命も瞬くうちで この世は仮の宿のようなもの
悲しい風が胸に吹きこみ
滴る露のような涙を流すこともあります
でもこんなときは箱を開いてあなたにお会いするための衣装でも作りましょう
そう思って 私は白絹の布と糸を取り出し裁縫するのです
【『浮萍篇』】この篇は、兄弟の不和を棄てられた女の心情に託して歌ったものという。 【15の年】原文「結髪」。髪を束ねることで、成人したことを意味する。男は20歳、女は15歳。 【瑟琴】瑟(しつ)はオオゴト、琴(きん)はコト。 【商と参】ともに星の名前。「商」(「辰」ともいう)は夏に東の空に昇るサソリ座の星、「参」は冬に西の空にあるオリオン座の星。互いに出入時が重ならず、同時に現われることがないから、めったに逢えないことの例えに使われた。また、東西に離れて位置するため、遠く隔たっているという意味にも使われる。 【呉茱萸】ヘンダール科の落葉小喬木。赤い実が生り、芳香を放つ。邪気を払うという。 【(最後の2句)】最後の2句は「新人」の描写で、「私は絶望的な気持ちで、楽しそうに衣裳を作る彼女の姿を眺めている」という解釈もあるけど、曹植らしくないから採用しない。 

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