『感婚の賦』

陽氣動兮淑清、百卉鬱兮含英。春風起兮蕭絛、蟄虫出兮悲鳴。顧有懐兮妖嬈、用掻首兮屏営。登清臺以蕩志、伏高軒而遊情。悲良媒之不顧、懼歡媾之不成。慨仰首而太息、風飄飄以動纓。 陽気 動きて淑清たり、百卉は鬱として英を含む。春風 起こりて蕭絛たり、蟄虫 出でて悲鳴す。顧りみて懐うこと有りて妖嬈たり、用て首を掻きて屏営す。清台に登り以て志を蕩し、高軒に伏して情を遊ばす。良媒の顧みざるを悲しみ、歓媾の成らざるを懼る。慨き首を仰げて太息すれば、風 飄飄として纓を動かす。 うららかな春の気配がしてくると、多くの植物が芽吹き、蕾をつけはじめる。春風も騒がしくなって、土の下の虫達は躍動をはじめた。そんな季節に、私は美しいあの人のことを思って落ち着かない。さっきから頭を掻きつつ行ったり来たり。静かな楼台に登り、思いを廻らせ、高閣の欄干にもたれて心を楽しませよう。私には適当な仲人がいないことが悲しい。このままでは望むような関係が成就しないのではないかと弱気になる。嘆きつつ空を見上げてため息をこぼせば、風はひらひらと冠の紐を揺らした。
【『感婚の賦』】曹植がまだ若い頃作った作品。断片しか伝わっていない。 【頭を掻きつつ行ったり来たり】原文「屏営」は心落ち着かずさまよう様子、また恐れる様子。踟蹰(ちちゅう)と同じ。また「首」は「くび」ではなく「あたま」。『詩経』「邶風 静女」の「静かなる女(むすめ)の其れ姝(かおよ)きが、我を城の隅にて俟つ。愛すれども見えず。首(こうべ)を掻きつつ踟蹰す」とある。 

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