道 君 願 不 憤 慈 讒 衆 人 籠 遠 門 欲 辨 憤 母 言 口 之 欲 河 以 披 僞 俗 不 三 可 仕 升 無 九 心 眞 間 親 至 以 進 天 津 重 自 丶 丶 丶 丶 鑠 待 須 丶 丶 説 丶 丶 丶 丶 金 中 浮 丶 丶 陳 丶 丶 丶 丶 丶 人 雲 |
龍欲升天須浮雲 竜 天に升らんと欲すれば 浮雲に須ち 人之仕進待中人 人の仕進は中人に待つ 衆口可以鑠金 衆口 以って金を鑠かす可く 讒言三至 讒言 三たび至りなば 慈母不親 慈母も親しまず 憤憤俗間 憤憤たる俗間 不辨僞眞 偽と真を弁ぜず 願欲披心自説陳 願わくは 心を披きて自ら説陳せんと欲するに 君門以九重 君門 以に九重にして 道遠河無津 道は遠く 河に津無し |
龍は浮き雲に援けられて天に昇り 人は君主の側に仕える人の助けを借りて仕官する しかし「人の噂は 金さえ溶かす」というし 根拠のない讒言も三人から言われると 慈母でさえ我が子を疑ってしまう ああ 不平をいだき 世俗にまみれた人々は 真実と偽りを区別することができない 私が直に心を打ち明け 自ら申し述べたいと思っても わが君のいらっしゃるところは九つの門に閉ざされていて 道のりは遠く 川には渡し場がないのです |
【『牆高からんと欲する行に当う』】制作年代は黄初年間といわれる。タイトルの通り、『牆欲高行』というもと歌があって、それに当てた作品。221年(黄初2年)、曹植は朝廷から派遣された監国謁者に讒言され、極刑に処せられそうになった。「衆口 以って金を鑠(と)かす可く」は、その辺りをふまえての作だろうか。 【牆】かき。壁。 【君主の側に仕える人】原文「中人」は、宮廷に仕える人のこと。のちに宦官を表す限定的な言葉になるが、ここでは皇帝の側近。または仲人(仲立ちとなる人)の意味か。「どんなに有能な人物でも、仕官するには、いま権力を握っている役人の紹介が必要」といった意味。 【人の噂は 金さえ溶かす】『国語』「周語下」に、「衆心は城を成し、衆口は金を鑠(と)かす」とある。人の噂は恐ろしいという喩え。讒言を受けたときの弁明では、常套句として使われる。 【根拠のない讒言も…我が子を疑う】『戦国策 秦策』にある有名な話。「昔者(むかし)、曹子 費に処る。費人に曹子と名族を同じうする者有りて、人を殺す。人、曹子の母に告げて曰く、「曹参、人を殺せり」と。曹子の母曰く、「吾が子は人を殺さず」と。織ること自若たり。頃(しばら)く有りて、人又曰く、「曹参、人を殺せり」と。其の母 尚織ること自若たり。之を頃くして、一人又之に告げて曰く「曹参、人を殺せり」と。其の母 懼れて杼を投じ、牆を踰えて走れり。夫れ曹参の賢と母の信とを以てしても、三人之を疑わしむれば、則ち慈母も信じること能わざるなり。(昔、曹参(そうしん、孔子の弟子)は費にいた。費に住む人で、曹参と同姓同名の人がいて、殺人を犯した。ある人が曹参の母に「曹参が人を殺した」と知らせたが、息子を信じる母は平然と機織を続けていた。しばらくしてまた別の人が「曹参が人を殺した」と告げた。それでもまだ平然と機織を続けていた。またしばらくして、別の人が母に「曹参が人を殺した」と伝えた。さすがに今度は機織道具を手放し、垣根を越えて走り出した。このように曹参ほどの賢明さと、母の厚い信頼があったとしても、三人が告げ口をすれば、どんな慈母でも信じる気持ちが揺らいでしまうものなのだ。)また、『三国志 呉志巻2』に載せる文帝(曹丕)が孫権に送った書簡の中で、「曹母 杼を投ずの疑あるといえども、猶お冀わくは言は信ぜざるを、以って国家の福となす。(曹参の母が杼を投げ出すほど〔君に対する〕疑惑が朝廷では提出されているけれども、そうした者の奏上は真実と異なっていて欲しい、そうであるなら国家にとって幸いだと願っていた。)」と、この故事が引かれている。 【九つの門】『楚辞 九弁』に、「君の門 以(すで)に九重たり」とある。九は行き止まりの数字であるから、奥深いことを表わす。