『丁翼(ていよく)に贈る』


無 君 時 滔 榮 積 小 君 譬 大 朋 我 觴 肴 齊 秦 曲 吾 豐 嘉
願 子 俗 蕩 枯 善 人 子 海 國 友 豈 至 來 瑟 箏 宴 與 膳 賓
爲 通 多 固 立 有 德 義 出 多 與 狎 反 不 揚 發 此 二 出 填
世 大 所 大 可 餘 無 休 明 良 我 異 無 虚 東 西 城 三 中 城
儒 道 拘 節 須 慶 儲 偫 珠 材 倶 人 餘 歸 謳 氣 隅 子 廚 闕



嘉賓填城闕 嘉賓は城闕に填(み)ち
豐膳出中廚 豊膳は中廚より出づ
吾與二三子 吾 二三子と与に
曲宴此城隅 此の城隅に曲宴す
秦箏發西氣 秦箏(しんそう)は西気を発し
齊瑟揚東謳 斉瑟(せいしつ)は東謳を揚ぐ
肴來不虚歸 肴 来たりて虚しくは帰らず
觴至反無餘 觴 至りて反(かえ)すに餘り無し
我豈狎異人 我 豈 異人と狎(な)れんや
朋友與我倶 朋友 我と倶にす
大國多良材 大国には良材多し
譬海出明珠 譬うれば 海の明珠を出すがごとし
君子義休偫 君子は 義 休(よ)く偫(そな)わり
小人德無儲 小人は德を儲(たくわ)える無し
積善有餘慶 善を積めば 余慶有り
榮枯立可須 栄枯 立ちどころに須つ可し
滔蕩固大節 滔蕩(とうとう)たるは固より大節にして
時俗多所拘 時俗は拘(こだわ)る所多し
君子通大道 君子は大道に通ず
無願爲世儒 世儒と為るを願うこと無かれ
良き客人たちが城の楼閣にあふれ
豪華な料理が調理場から運ばれてくる
私は君たち2・3人の友人とともに
この城楼の片隅で小宴を開いた
の箏を爪弾けば西方の調べが興り
の瑟を奏でれば東方の歌が流れる
出てくる料理はすべていただき
杯が回ってくれば必ず飲みほす
どうして他の人達と親しくしようなどと思おうか
私にはこんなに素晴らしき友がいてくれるのだから
大国には優れた人物が多い
言うなれば大海から多くの真珠が採れるようなもの
君子には徳義が十分に備わっているが
つまらぬ人物は徳を身につける余裕がない
善い行いを積めば必ず後から報われるという
栄枯盛衰というものは めまぐるしく移り行く
悠々としてこだわりを捨ててこそ理想の生き方というものだが
今の世間には つまらぬことにこだわる人物が多すぎる
君子は大道に通達しているもの
君ほどの人物が俗っぽい儒者になろうなどと思わないでくれたまえ
【丁翼に贈る】丁翼(?-220)、字は敬礼。曹植擁立に熱心だった丁兄弟の弟の方。(『文選』では丁翼、『三国志』は丁廙としているが、同一人物。) 【秦・斉】秦は西、斉は東の地方であるから、それぞれの楽曲は西気と東謳に満ちている。 【善い行いを積めば 必ず後から報われる】『周易』坤の文言に「積善の家には必ず余慶あり」とある。 【俗っぽい儒者】原文「世儒」。『論衝』「問孔篇」に 「世儒学者、好みて師を信じて古を是とし、もって聖賢の言う所 皆非なること無しと為す。専ら講習に精(くわ)しく、難問を知らず」とある。 

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