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『神女の賦』

惟玄媛之逸女、育明曜乎皇庭。吸朝霞之芬液、澹浮遊乎太清。余執義而潛厲、乃感夢而通靈。盛容飾之本艷、奐龍采而鳳榮。翠黼翬裳、纖縠文袿。順風揄揚、乍合乍離。飄若興動、玉趾未移。詳觀玄妙、與世無雙。華面玉粲、韡若芙蓉。膚凝理而瓊絜、體鮮弱而柔鴻。回肩襟而動合、何俯仰之妍工。嘉今夜之幸遇、獲帷裳乎期同。情沸踊而思進、彼嚴厲而靜恭。微諷說而宣諭、色歡懌而我從。
惟れ玄媛の逸女、明曜を皇庭に育(やしな)う。朝霞の芬液を吸い、澹(やすら)かに太清に浮遊す。余 義を執りて潜厲し、乃ち夢に感じて霊に通ず。容飾の本より艶なるを盛んにし、龍采を奐(おお)いにして鳳栄たり。翠黼翬裳、繊縠文袿あり。風に順いて揄揚し、乍(たちま)ち合し乍ち離る。飄として興動するが若く、玉趾 未だ移らず。詳(つまび)らかに玄妙なるを観、世と雙ぶ無し。華面玉粲、韡として芙蓉の若し。膚 凝理して瓊絜たり、体 鮮弱として柔鴻たり。肩襟を囘(めぐ)らせて動き合す、何ぞ俯仰の妍工なる。今夜の幸遇を嘉し、帷裳を獲て同じくするを期せん。情 沸き踊りて思い進み、彼 厳厲として静恭たり。微(ひそ)かに諷説して宣諭し、色 歓懌にして我 従う。
ひときわ麗しい神女は、神たちの宮殿で美しく成長した。朝焼けの雲気のかぐわしい滴を吸い、ゆったりと天空に浮かび遊ぶ。私は正しい行いを守ってひたすら励み、ついに夢の中で彼女と心を通じることができた。あでやかに着飾った女神は美しさに輝きを増し、竜の彩りを集め、鳳(おおとり)の華やかさをそなえる。翡翠の刺繍の衣にまばゆいほど煌めくスカート、やわらかな薄絹にあざやかな文様のうちかけをまとう。風に乗って舞い上がり、その残像は集まったり散らばったりする。ひらひらと動き出したように見えて、足元には動いている様子がない。その玄妙な美しさは、見れば見るほどこの世に並ぶ者などいないように思われる。花の如き美貌はきらきらと輝き、その華やかさは芙蓉の花のよう。肌はどこまでも滑らかで光り輝く宝玉の清らかさを持ち、体つきはしなやかで優雅な白鳥のよう。くるくると舞う姿はよく調和し、なんと立居振舞のすばらしいことよ。私は今夜の幸せな出会いを喜び、車に同乗して共に行きたいと願った。気持ちは高鳴り想いは募るが、彼女の態度は固く、落ち着いて慎み深かった。それとなく諌め諭し、言い聞かせる様子であったので、私は喜んで彼女の言葉に従った。
【『神女の賦』】『神女賦』は神女との邂逅を描いた作品。『藝文類聚』巻79はここで途切れるが、この作品にはおそらく続きがあった。『神女賦』は宋玉に始まり、その後も類似作品が多く作られた。同時代では陳琳・王粲・応瑒などか同タイトルの作品を残している。曹植の『洛神賦』も序文で宋玉『神女賦』に影響を受けて作ったと書かれており、同じ系統の作品。  

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