『徐幹に贈る』


申 親 積 亮 膏 良 知 彈 和 寶 興 慷 皮 薇 貧 顧 流 春 迎 文 遊 聊 小 志 衆 圓 忽 驚
章 交 久 懐 澤 田 己 冠 氏 棄 文 慨 褐 藿 賤 念 猋 鳩 風 昌 彼 且 人 士 星 景 然 風
復 義 徳 璵 多 無 誰 俟 有 怨 自 有 猶 弗 誠 蓬 激 鳴 高 鬱 雙 夜 亦 營 粲 光 歸 飄
何 在 逾 璠 豊 晩 不 知 其 何 成 悲 不 充 足 室 櫺 飛 中 雲 闕 行 不 世 以 未 西 白
言 敦 宣 美 年 歳 然 己 愆 人 篇 心 全 虚 憐 士 軒 棟 天 興 間 遊 間 業 繋 滿 山 日

                                                         



驚風飄白日 驚風 白日を飄えし
忽然歸西山 忽然として西山に帰る
圓景光未滿 円景 光未だ満たず
衆星粲以繋 衆星 粲として以(か)つ繁し
志士營世業 志士は世業を営み
小人亦不間 小人も亦た間ならず
聊且夜行遊 聊且(しばら)く 夜行きて遊び
遊彼雙闕間 彼の双闕の間に遊ばん
文昌鬱雲興 文昌 鬱として雲のごとく興り
迎風高中天 迎風 中天に高し
春鳩鳴飛棟 春鳩は飛棟に鳴き
流猋激櫺軒 流猋は櫺軒(れいけん)に激す
突然の疾風は太陽をひるがえし
早くも西の山に日は暮れてしまった
月はまだ満ちてはいないが
星たちはきらきらとこの夜空にまたたく
志ある者は新しい時代を作る仕事に打ち込み
つまらない人物でさえ決して暇ではない
私は しばらく夜の散策を楽しもうと
並びたつ楼台のあたりをさまよった
文昌殿は密雲のように並び立ち
迎風の高閣が中空高くそびえる
このよき春に 鳩は屋根の頂上で鳴き声をあげ
疾風は格子窓に激しく音をたてる
顧念蓬室士 顧みて蓬室の士を念えば
貧賤誠足憐 貧賤 誠に憐れむに足る
薇藿弗充虚 薇藿 虚しきを充たさず
皮褐猶不全 皮褐 猶お全からず
慷慨有悲心 慷慨して悲心有り
興文自成篇 文を興せば自ずから篇を成す
寶棄怨何人 宝 棄てらるるも何人をか怨まん
和氏有其愆 和氏 其の愆ち有り
彈冠俟知己 冠を弾きて知己を俟つも
知己誰不然 知己 誰か然らざらん
良田無晩歳 良田には晩歳無く
膏澤多豊年 膏澤には豊年多し
亮懐璵璠美 亮に璵璠の美を懐けば
積久徳逾宣 積むこと久しくして 徳 逾いよ宣(あき)らかなり
親交義在敦 親交 義 敦きに在り
申章復何言 章を申(かさ)ねて 復た何をか言わん
振りかえってあばらやに住む君を思えば
その貧しい暮らしぶりは まことに憐れむべき姿
ぜんまいと豆の葉さえ空腹を満たすのに十分でなく
粗末な衣服では寒さを防ぐことができないだろう
なぜ志を得られずに嘆き悲しまなければならないのか
筆を下ろせば必ずすぐれた詩文を作りあげるほどの君が
宝玉は顧みられなくても 誰を怨むこともしなかった
和氏の不遇は宝玉のせいではなく すべて彼自身の過ちによるものだ
冠の埃を払って推挙してくれる人を待ち望んだとしても
君を知る人が そうできる環境にないこともあるだろう
しかし良田なら収穫が遅れることはないし
恵みの雨が潤す年は豊作だという
まことにそれが名玉であるならば
歳月とともに その徳の高さはいよいよ輝くことになる
我々の友情は情義の厚さにおいて何ら変るものではない――
いまはこれ以上 君に贈る言葉が見つからない
【『徐幹に贈る』】徐幹(171-217)字は偉長。北海国の人。建安の七子の一人。 【文昌殿】鄴の正殿。役所がある。 【和氏】楚の卞和(べんか)が荊山で宝玉を拾い、それを厲王に献上したところ、ただの石だとされて右足を斬られてしまった。武王の時、また献じたところ、やはり贋物だとして左足を斬られてしまった。文王の時代になって、その石を磨かせると、果たして宝玉だということが分かり、その宝玉を「和氏之壁」と呼ぶようになったというのが『韓非子』に見える話。その後は貴重な宝物の代名詞として使われ、曹植作品では『楊徳祖に与うる書』にも登場する。ここでは、卞和は宝玉がただの石ではないことを王に証明することが出来なかったことに、自分と徐幹の関係に重ね合わせ、徐幹は真実「宝玉」に違いないが、自分が力不足で、上手く推挙して出世させてあげることができなくて申し訳ないと言っている。

|戻る|

inserted by FC2 system