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『呉處玄に贈る詩』

我受上命 我 上命を受け
來隨臨菑 来りて臨菑に随う
與君子處 君子と処ること
曾未盈期 曾て未だ期に盈たず
見召本朝 本朝に召され
駕言趣期 駕して言に期に趣く
羣子重離 群子は離るるを重んじ
首命于時 首は時に命ぜり
餞我路隅 我を路隅に餞し
贈我嘉辭 我に嘉辞を贈る
既受德音 既に徳音を受く
敢不答之 敢えて之に答えざらんや
私はお上からの命を受け
ここへ来て臨淄侯の属官となった
君と過ごした時間は
まだ一年にも満たないのに
朝廷より呼び出され
命令通りここを出ていくことになった
仲間たちはこの別れを重く受け止め
出発にあたって
私のために送別の宴を催し
私に送別の詩を贈ってくれた
すばらしいお言葉をいただいたからには
私もそれにお答えしようと思う
【『呉處玄に贈る詩』】この作品は、邯鄲淳が呉處玄という人物へ贈った詩である。呉處玄についてはどういった人物がよくわからないが、この詩の内容から、邯鄲淳とともに曹植に仕えていた人物だということがわかる。また『巵林』巻7では、「この詩は邯鄲淳が詔に応じ、臨淄侯と別れた時の詩である」と書かれている。偶数句末の押韻と内容から三段落に分けた。最初の段はこの詩を作ることになった経緯を述べ、次の段で今までの恩義と別れがたい心情を述べ、最後の段は贈る言葉で締めくくっている。邯鄲淳が曹植に仕えていた時期がはっきりしないため、いつ曹植のもとを去ったのかもわからないが、邯鄲淳は黄初年間の初めに曹丕に召し出されているので、この時に曹植の属官を離れた可能性が高い。 

余惟薄德 余 惟れ徳に薄く
既局且鄙 既に局にして且つ鄙なり
見養賢侯 賢侯に養わるること
於今四祀 今に於いて四祀
既庇西伯 既に西伯に庇われ
永誓沒齒 永く没歯なるを誓えり
今也被命 今や命を被り
義在不俟 義は俟たざるに在り
瞻戀我侯 我が侯を瞻戀し
又慕君子 又た君子を慕う
行道遲遲 道を行くも遲遲として
體逝情止 体は逝けども情は止まる
私は徳に薄く
才能にも欠ける者であるが
臨淄侯に大切にされること
すでに4年
西伯から受けたような庇護を受け
死ぬまでの忠誠を誓っていたが
いま命令を受けて
私はここに留まる事が出来なくなった
我が臨淄侯を恋い慕い
また君と離れがたく思う
そのため歩みは遅々として進まず
体は進めども情は残る
【西伯】周の文王のこと。儒家にとっての理想の天子  【死ぬまで】原文「没歯」は歯がなくなることから寿命が尽きるという意味。終身。 

豈無好爵 豈に好爵無からんや
懼不我與 我に与せざるを懼る
聖主受命 聖主の受命は
千載一遇 千載一遇なり
攀龍附鳳 龍に攀(すが)り鳳に附くは
必在初舉 必ず初挙に在り
行矣去矣 行かん去らん
別易會難 別れは易く会うは難し
自強不息 自ら強(つと)め息(や)まざれば
人誰獲安 人は誰も安を獲ん
願子大夫 願わくは子大夫
勉簣成山 簣を勉めて山を成し
天休方至 天休 方に至り
萬福爾臻 万福 爾れ臻らん
あちらにはいくらでも羨ましがられるような官職はあるだろうが
私にそのようなものは回ってこないだろう
この度の禅譲のようなことは
滅多に起こるものではない
龍や鳳についていくように時勢に乗れるかどうかは
最初のふるまいで決まってくるのだ
ああ さよならだ
別れは容易く訪れ 再会は期し難い
自らすすんで努力し怠らなければ
穏やかな心でいられるだろう
できることなら君たちよ
小さな努力を積み重ね山を成したまえ
やがて天からの恵みがやってきて
福が次々と訪れるだろう
【龍や鳳についていく】揚雄の『法言』「淵騫」に「攀龍鱗、附鳳翼(龍のうろこにつかまり、鳳凰の翼につき従う)」とある。勢いのある者につき従って出世しようとすること。  

(藝文類聚/卷31)

■管理人MEMO■
邯鄲淳は丁兄弟や楊修とともに曹植の四友とも言われ、曹植派ど真ん中の人物である。曹丕は後継者争いで曹植を支持した人たちを決して許さず、楊俊のように数年かけて自殺に追い込んだ例もあった。帝位についた曹丕から呼び出された邯鄲淳も、ある程度、自分の死を覚悟していたのかもしれない。この時、邯鄲淳はすでに90歳に近い老人だったが、『投壷賦』を曹丕に献上し、魏を讃える『受命述』も作って、なんとか処刑は免れたようだ。(でも直後に亡くなっているので、許されたのか殺されたのかは微妙なところかもしれない…。)

この詩を読んだ印象だと、呉處玄は邯鄲淳よりかなり若い感じで、曹植に仕えて一年も経っていないことなどから、後継者争いに深く関わっていたようには見えない。最後の段はどう訳すべきか悩んだけれど、邯鄲淳の言葉は、「私はもう老人だし、朝廷から恨みも買っているのでお先真っ暗かもしれないけれど、君たちはこれからの身の処し方によっては、まだワンチャンあるかもしれないから頑張って」という励ましと捉えた。



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