『公讌』


千 飄 輕 神 好 潜 朱 秋 列 明 飛 清 終 公
秋 颻 輦 飈 鳥 魚 華 蘭 宿 月 蓋 夜 宴 子
長 放 随 接 鳴 躍 冒 被 正 澄 相 游 不 敬
若 志 風 丹 高 清 緑 長 參 清 追 西 知 愛
斯 意 移 轂 枝 波 池 坂 差 景 随 園 疲 客




公子敬愛客 公子 客を敬愛し
終宴不知疲 宴終るまで疲るるを知らず
清夜游西園 清夜 西園に遊び
飛蓋相追随 飛蓋 相追随す
明月澄清景 明月 清景を澄え
列宿正參差 列宿 正に参差たり
秋蘭被長坂 秋蘭 長坂を被い
朱華冒緑池 朱華 緑池を冒う
潜魚躍清波 潜魚 清波に躍り
好鳥鳴高枝 好鳥 高枝に鳴く
神飈接丹轂 神飈 丹轂に接わり
輕輦随風移 軽輦 風に随いて移る
飄颻放志意 飄颻として 志意を放にし
千秋長若斯 千秋 長に斯くの若くならん
公子は賓客を敬愛され
宴が終わっても疲れた様子もお見せにならない
静かな夜をめでて西の庭園に遊ばれ
客たちはおのおのを駆って付き従った
明るい月は涼やかな光をたたえ
空に連なる多くの星はいまあちこちに点滅する
秋蘭が彼方の丘まで覆い
朱色のはすの花は緑なす池一面に群れ咲く
水中に潜む魚は清らかな波間で躍り
高い枝にはきれいな小鳥がさえずっている
不思議にはやく吹く風は公子の車に吹き付け
軽やかな車は風にまかせて移動する
そして私は舞い上がる風のように心の馳せゆくまま
千年ののちまで このようでありますように
【『公讌』】公の宴会のこと。これに対して、私的な宴会は私宴・曲宴などといわれる。この詩は、銅雀園で兄曹丕が催した宴に出席したとき(211年)作った作品。列席していた劉楨(りゅうてい)・応瑒(おうとう)も、この時に作品を残している。ホスト側の曹丕が作ったのが『芙蓉池の作』といわれる。その中で「遨遊して心意を快くし、己を保ちて百年を終えん」と控えめな兄に対し、「千秋 長に斯くの若くならん」と、聡明な弟は「百年といわず千年も」というリップサービスを忘れなかった。これはまだ麗しい兄弟愛を展開していた頃の作品。銅雀台は210年冬に設けられた魏都の象徴的楼台で、曹丕の『登台の賦』によると、212年にも、曹丕主催の公宴が開かれた。 【公子】ここでは兄曹丕のこと。当時の官職は五官中郎将。公子は、一般的には諸侯の子をさすので、曹植も公子の一人。 【車】原文「飛蓋」。「蓋」は車につけるおおい。「飛」は軽快に駆けるさま。 【秋蘭】いわゆる「ラン」の花ではなく、菊科の香草。『朔風』にも見える。 【公子の車】原文「丹轂」。轂は車輪の中心の円木。「丹轂」はそこを丹(あか)く塗装したもの。皇太子・諸侯らが乗る朱塗りの車を指す。 

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